米国の航空会社に勤務する副操縦士、裕坊です。
航空会社では、国内線でも機材の運用から時折30時間の宿泊滞在が入ります。
上の写真は、ニューヨークの鉄道が一堂に介するグランドセントラル駅。ニューアーク空港に到着しての30時間滞在でした。
5月の戦没将兵追悼記念日の週末では、家族を連れてブルックリンまで。
ユダヤ系の住人がとても多い地域の中に佇む、老舗のステーキハウスがこの時のお目当て。
骨付きのステーキが熱々のままに提供されます。
ただしお会計は、米国内で発行されたデビットカード以外は、全て現金による支払いになるので要注意です…あとお値段もかなり高め……
この日の気温は最高でも25度と快適なお天気でした。
そしてつい最近になって入った、同じニューヨーク滞在の1日。
当日の気温は最高で35度にまで上がり、
裕坊はニューヨーク公共図書館で、涼んだりしておりました…
デザートには、クリームが厚くたっぷりと入ったドーナツにコーヒー…
当日のニューヨークは湿度が低く、日陰に入ると比較的凌ぎやすい気温で、命の危険を感じることなどはありませんでしたが、さすがに35度を超える猛暑日となると、航空機の運航には影響を少なからず受けることになります。
航空機が空中で飛行させるために必要となる揚力、推力の原力は空気(気体)分子。(推力には、これに燃料と火花とが加わります)
気体分子の絶対数に比例して航空機の飛行性能は上がるのですが、空気密度が低くなるとエンジンや翼面に得られる気体分子の密度は下がるため、相対的に揚力、推力も低下することになります。
各航空機ごとで限界上昇高度が定められているのは、高高度での空気は薄くなり、一定の高度よりも安全には上昇ができなくなるため。
同様に気温が大きく上がってしまうと空気の密度は下がりますから、空力学的性能に大きく影響を及ぼします。
特に顕著なのは離陸時。
エンジンの出力は下がって加速性能は下がり、離陸に必要な速度に達するのに時間がかかりますから、離陸滑走距離は伸びることに…
離陸後も空気密度が低い中での飛行になりますから、当然上昇性能は上がらず上昇率は下がり、加速にも時間を要することになります。
つい最近、ミネアポリスからニューアークへと向かう便で、こんなことがありました。
この時はニューアーク地方の天候が不安定で、雷雲がやや残った状態。燃料を余分に搭載し、さらに客席は全席満席。ほぼ最大離陸重量で離陸をするという極めて稀な運航便でした。
通常の離陸では、実際にはエンジンは最大出力にすることは極めて稀で、最大出力からおよそ5%、もしくは10%ほどを節約した状態で離陸します。
ところがこの便では全く遠慮をすることなく、エンジン出力を全開にした状態での離陸…
離陸時に片肺状態に陥った時を想定して、1基のエンジンでも飛行可能な推力を保つための措置でした。
そして通常時の離陸とは違った条件だった項目がもう1つ…
機内の温度を一定に保ち、快適に過ごすことができる気圧を保つために、エンジンに取り入れられた圧縮空気の一部を機内へと送り込む装置があるのですが(これを与圧装置と呼びます)、
ジェット旅客機のエンジンからの出力は、一基だけが動作している状態でも離陸が可能なほどに高いので、通常時であれば与圧装置を稼働させていても離陸性能にはほとんど影響がありません…
ところがニューアーク行きとなったその便では、与圧装置を一時切断した状態で離陸…
全長がミネアポリス空港では最も短い滑走路からの離陸だったこともあり、エンジン出力を全稼働させた上での離陸になっていました…
これも片方のエンジンが故障しても安全に離陸上昇する性能を保つため…
高気温時での離陸というと、先日大惨事となってしまったエアインディア171便の離陸時も43度という高温でした。
ただ気温が直接の原因になったとは、現時点では非常に考えづらいです。
ただしRATとも呼ばれる、緊急のタービン装置が稼働した状態になっていましたので、2基のエンジンが故障していた可能性は十分にあります。
最近ニュースで何度か取り上げられたのが、ラム・エア・タービン(Ram Air Turbine)ことRATが事故機で稼働していたこと。
これは発電機能や油圧系統が全故障を起こして不動状態に陥った時に、胴体から反り出されるプロペラ装置。
多くの旅客機では主脚の後ろに格納されていることが多く、エンジン故障などによって発電機能、油圧系統が作動しなくなった時に緊急稼働します。
プロペラが回転することによって発電機などが稼働する仕組みは、実はターボプロップ機と全く同じ仕組み。
先日のエアインディア機でも、プロペラ機と全く同じ音を奏でながら高度を下げる様子が撮影されていましたので、エンジン出力は相当に下がっていた可能性は非常に高いです。
既に機体の一部に加えて、飛行時の飛行記録を収めたフライトデータレコーダーなども回収済み。
事故原因の究明を待ちたいと思います。
離陸直後にエンジンが両基とも停止してしまうと、どれほどに優秀なパイロットといえどもできることは限られます。事故機を担当した機長さんも、無念の思いだったと想像します。事故で亡くなられた方には、心からご冥福をお祈りいたします。
次回は7月にお目にかかります。































