yuichibow’s blog

ジェット旅客機の操縦席から外を眺めるお仕事をする人の日記

裕坊パイロット日記 6/9

アメリカ国内リージョナル航空会社に勤める、裕坊と申します。こんにちは。

コロナウィルスの影響による大幅な需要減に見舞われるアメリカの航空業界。3月から4月にかけては需要が昨年比で9割を超える大幅減になるほどの影響を受け、乗務員も半数以上が欠員補充要員となって自宅で待機。フライト自体も7割が削減されて、担当するフライトもなく、先週木曜日から続いた裕坊の6日間のスタンバイ待機は、フライトなしのまま終わりました。

 

需要が減れば、当然のことながら旅客機の需要も減ります。特に国際線機材用の受注に大きく影響が出ていて、例えば全日空の場合ですと、

2階建ての大型旅客機のエアバス380型機、ドリームライナーことボーイング787型機を含めた13機の納入が延期。

 

デルタ航空でも、25機確定発注になっているエアバス350型機のうち、10機の納入が延期されることになっています。

ただしデルタ航空の場合は、同時に中近距離用のエアバス321型機を30機、新たに発注することになりました。しばらく長距離国際線の需要が拡大せず、国内線もしくは近距離国際線に重点を置くのが得策、と見込んだ上での発注だったのでしょう。

 

大型国際線機材を多く保有する航空会社の代表格といえば、こちらエミレーツ航空アラブ首長国連邦)。

超大型の4発機を、3桁抱えているのは、世界広しといえどもここエミレーツ航空だけ。世界の航空会社が国際線用機材を双発機に鞍替えし、A380型機の生産が終焉を見据える中、現在でも2階建て旅客機A380を115機も保有し、まだ8機の納入を控えています。

 

ただ、その8機のA380型機の納入は延期。国際線航空旅客需要は、蒸発したと表現して構わないくらいの影響を受けていて、ほとんどの機体が駐機状態………ひょっとするとエアバス社との契約の内容によっては、発注をA350型機などの双発機へ切り替えなどという筋書きが、どこかで起きるかも知れません。

ちなみにエミレーツ航空は、エアバス350型機を50機発注していて、現在の契約では2023年以降の納入が予定されているそうです。

 

 

しかし航空機の発注、納入に関していうと、必ずしも慎重姿勢の航空会社ばかりではなく、強気の姿勢を保っている会社も少なからず存在します。先週のニュースでは、合計で4社に跨がる430機ものエアバス機の発注を、契約通り遂行するという会社の名前が上げられました。

 

 

会見に応じていたのは、アメリカ、中南米、東欧にそれぞれ拠点を置く4社の経営を統括する、インディゴー・パートナーズ社の最高経営責任者、ビル・フランク氏。

かつてはアメリカウェスト航空(様々な経営統合を経て、現在はアメリカン航空の一部になっています)の最高経営責任者も務めていたこともありました。その後も、シンガポールの格安航空、タイガー航空の経営者を務めたり、アメリカのフロリダ州に本拠を置く、スピリット航空の経営者を務めるなど、複数の航空会社経営に携わってきた格安航空会社のカリスマでもあります。

 

2017年年末に、インディゴー・パートナーズ社の社長として、エアバス社の史上最大発注となる430機のエアバス320型機、321型機の契約を締結、航空業界を仰天させました。

 

 

その内訳を見ていくと……

 

 

まずはアメリカ、コロラド州デンバーに本拠を置くフロンティア航空。

1993年にデンバーでチャーター航空会社として立ち上げられ、その後はノースダコタの4都市を結ぶ小規模の定期運送会社になるなど、順調な拡張を続けていたのですが、格安航空の老舗であるサウスウエスト航空デンバーへの本格参入によって収益が落ち込み、経営が破綻。一旦は破産法下に置かれることにもなりました。

 

その後はサウスウエスト航空からの吸収合併交渉を持ちかけられたものの、交渉は不調に終わり破談………一時はリージョナル航空会社(リパブリックエアウェイズ、本社インディアナ州インディアナポリス)の傘下にまでなった時期もありました。

現在ではインディゴー・パートナーズ社の傘下になっていて、デンバーの他に、オーランド、ラスベガス、シカゴ(オヘア空港)、マイアミ、フィラデルフィアの6空港を拠点に、98機のエアバス機を保有しています。新規発注は、100機のA320型機と34機のA321型機の合計134機。現在保有する機体数よりも発注数が多く、インディゴー・パートナーズ社の強気な姿勢が窺われます。

 

残り3社を見ていくと、

 

まずはメキシコに本社を置くボラリス航空。メキシコとコスタリカを拠点に、北米中米を結びます。

発注は46機のA320型機に、34機のA321型機で、合計は80機。

 

チリに本社があるジェットスマート。運航拠点はチリとアルゼンチンで、中南米の各都市を結ぶ役割を果たし、チリ、ペルー、ブラジル、コロンビアなどへ運航しています。

56機のA320機と14機のA321型機が発注になっていて、合計が70機。

 

そしてウィズ航空。東ヨーロッパのハンガリーに本社があり、ここ数年ほど急拡大をしていた格安航空会社で、最近になって新しく4つの拠点を開設することになったそうです。従来からあるハンガリーポーランドブルガリアルーマニアなど現在ある14の運航拠点に加えて、イタリア、アルバニアウクライナキプロスの4拠点が加わることになりました。

インディゴー・パートナーズ社が統括する4社の中でも、運航規模が最も大きく、発注数も最大。A320型機で72機、A321型機で74機の計146機が加わることになっています。

 

ちなみに航空会社の塗装に詳しい方の中には、上のウィズ航空の塗装をご覧になって、かつてアイスランドに存在した格安航空会社のワオ航空(WOW Air)を想像された方がいらっしゃるかも知れません。

実際、昨年3月のワオ航空の経営破綻前の2018年11月には、インディゴー・パートナーズ社による買収の話が持ち上がって、仮契約まで至った時もありました……しかしその後、破談………ただイタリアの投資会社による買収の交渉が続いておりますので、この紫の機体を、いずれまたヨーロッパの空で見られる時が来るかも知れません。

 

 

フランク氏によると、今後しばらくはコロナウィルスの影響が続いて、航空需要は冷えた状態が続き、供給過剰が2年ほどは続くだろうと述べています。

4社に跨がって、合計で430機もの発注を入れているフランク氏ですが、その計画に変更の余地は全くないそうで、相当な自信に満ち溢れているようです。2023年を皮切りに各社へのエアバス機の納入が始まり、ちょうど航空需要が回復する時と合致する形になって、潜在的に拡大の要素がある旅客航空需要を、他社に先んじる形で取り込みたいという狙いがあるようです。

 

 

フランク氏の見込み通りに、2年後には航空需要が本格回復することを、心から期待しています。