アメリカ国内線中心の小型旅客機操縦士、裕坊といいます。こんにちは。
月曜日から水曜日まで受けた年次技量維持訓練を終えて、木曜日のお昼頃に帰宅。
帰ってきたその足で、そのまま歯医者さんへと行っておりました…
日本食材店からすぐ近くにある、日本人の歯医者さん。
この状態で口を開けたままにすること、30分…
最近では麻酔をしてくれますので、痛みは感じなくて済むようになりましたが、
奥歯の治療で、ずっと口を大きく開けたままだと…
顎が疲れた…
♫ババン、バ、バンバンバン♫
歯ぁ、磨けよ〜〜〜(歳がバレる…)
磨きます……
日曜日からは5日間勤務のフライトが始まるので、暫しの「羽休め」…一昨年まではシミュレーターによる飛行訓練は2日間。昨年から3日間となり、さらには毎年少しずつ新しい項目が加えられて、かなり中身も濃くなっているので、終わるときにはけっこうヘトヘト…
完全に思考停止状態になります…
ただ裕坊の入社当時(15年前)とは、訓練の趣旨は大きく変わりました。入社したての頃に問われたものといえば、飛行技術……旋回時に速度や高度を一定に保ったり、片肺飛行の時の姿勢を保ったり…
今でもそういった技術は大切ではありますが…
現在の訓練は過去の事故や事象例などから学んで、それを教訓に同じ過ちを繰り返さないようにしよう、というのが大きな方向性になっています。
前回の投稿(3月18日版)では、失速が原因での墜落を防ぐために、失速状態からの回復に重点が置かれるようになったことをご紹介しましたが、今回は同じ失速からの回復でもちょっと違ったパターン。我が社では一昨年度から取り入れられるようになりました。
教訓になっているのは……
リオデジャネイロからパリへと向かっていた、2009年のエールフランス機による大西洋での墜落事故…
事故から数日後には垂直尾翼こそ回収されたものの、水深が4,000メートルと深く、ブラックボックスの回収に2年を要するという捜索も難航を極めた事故でした。
事故を起こしたのと同型の、エアバス330型機。
問題になっていたのは、こちら、
ピトー管…
飛行機が飛ぶ方向に向かって、機首の周辺で機体の胴体から少し飛び出たような形になっている管のことを指します。
実際に部品を取り外してみると、こんな形。
この管には飛行機の前方からやってくる空気が取り込まれ、その圧力を測定することによって、空中を移動している速さを計算することができるようになっています。
速度が速ければ速いほど、中に入ってくる空気の圧力も大きくなって、
このように速度計の針が振れる、というのが基本的な仕組み。
ちなみに最近製造される旅客機はほぼ例外なく、大きな画面に高度計や機首方位計などが一緒に表示される、グラスコックピットが標準になりました。
このタイプのパネルでは、速度は大抵の場合、左側に表示されます。
事故直前、エールフランス447便は南アメリカ大陸を離れて大西洋上に差し掛かっていたのですが、
その頃大きな積乱雲が上がって、空気の流れが安定しない状態の中での飛行だったそうです。
積乱雲とは不安定な大気の中で、水蒸気が大量に上昇気流で集まった状態ですので、
雲の中では空気は荒れまくり、大粒の雨や雹が襲ってくることもザラ。
飛行機が積乱雲の中を通過するとダメージは避けられないので、 普段は飛行機に備え付けのレーダーを作動させて積乱雲を避けるのですが、
事故機は積乱雲の中へと入っていたのかも知れません…
実はエールフランスのエアバス機に備え付けのピトー管では、着氷が始まっていました。
ほとんどの飛行機ではピトー管の着氷を防ぐために熱伝導装置が付いているのですが、それが故障したか追いつかなかったかで着氷が始まっていたようです。
片側のピトー管が着氷により正確な速度を計測することができなくなり、機長席側と副操縦士席側とで速度表示に大きな差が生じていました。
それを感知した飛行機の操縦系統が、自動操縦を切断してしまいます。
姿勢を立て直すため、当時操縦役を務めていた副操縦士が操縦桿(エアバス機の場合は、サイドスティック)を握ったのですが、
機体の姿勢はなかなか安定せず、誤ってその操縦桿を引いてしまい機体は上昇を始めました。 問題だったのは速度計の副操縦士による見誤り。
実は速度計の中には、2つの気圧を測る部屋が膜で仕切られていて、片方では正面から入る動的空気圧、もう片方では静止気圧を測定する仕組みになっているのです。
この時は動的な圧力を測定する側は着氷によって空気が入ってこなくなっていましたが、静止気圧を測定する方は着氷による影響を受けていませんでした。 副操縦士が操縦桿を引いたことによって、飛行機は上昇を始めます。
高度が上がると空気は薄くなるので、静止気圧も当然下がり、速度計内の静止気圧を測定する側の空気も当然のことながら圧力が下がっていました。動的圧力測定側は、着氷時の空気がそのまま残っていますので、この状態では速度が上がっているかのように表示されます。
事故機でも機体の速度がどんどんと速くなっているかのような表示を始めていました。飛行機が制御不能の加速を始めてしまったものと勘違いしてしまった副操縦士……
実はその時、操縦室内の失速警報が作動を始めていました。実際には機首がどんどん上がって本当の速度は下がり続け、機体は失速状態へと近づいていたのです。それを感知して機首下げを行なっていれば、恐らく事故は防げたのでしょうが…
(この図でいうところの、一番下の状態に近づいていました)
副操縦士はスラストを入れ、目一杯に操縦桿を引いてさらなる機首上げを試みてしまったのです……
結果、機体は完全に失速して制御不能になり……
乗客乗員228名の命が奪われる、エールフランス社の75年の歴史における最悪の事故になってしまいました。
連邦航空局では数年前に、低信頼状態での速度表示(Unreliable Airspeed)という項目を加えるように各航空会社に指示。
我がエンデバー航空では一昨年度に導入されて、対処法も操縦手順に書き加えられました。エンジン火災、エンジン停止などの項目に加えて、最近における研修時の強調点として取り上げられるようになっています。
そして3日間に渡る訓練の3日目、こちらも最近の研修、訓練のトレンドの1つになっています。次回の投稿で掲載しますので、お楽しみに。