yuichibow’s blog

ジェット旅客機の操縦席から外を眺めるお仕事をする人の日記

裕坊パイロット日記 6/5

米国のリージョナル航空会社の操縦士を務める、裕坊と申します。こんにちは。

コロナウィルスの影響は、航空業界にはとても甚大。旅客便が昨年比で7割以上の減便になり、乗務員の担当する便も大幅減。平常時であれば、7割ほどの乗務員は担当便が決まっているスケジュールが入り、残り3割ほどが欠員補充になるのですが、6月はそれが逆転。裕坊が所属するデトロイトにおいても、110名在籍するパイロットのうち57名がリザーブと呼ばれる補欠要因になっています。裕坊も今月はリザーブ

 

今日6月5日(金)は、今月3日目のリザーブになりますが、今のところ連絡はなく、今後のフライトの予定も一切入っておりません……

57名のリザーブパイロットのうち、今月のフライトが入ったか、もしくは今後入っているリザーブパイロットは8名だけ……他は今月のフライト実績は未だにゼロで、今後のフライトすら入っていません……

 

フライトの本数も通常の3割程度で、ここ数ヶ月の運航実績が1日当たり1便だけ、という空港もありました。各航空会社も保有現金の枯渇を防ぐために数々の策を打ち出し、早期退職や無給での一時休暇による人員整理、保有する機種の整理などを進めてきましたが、次なる手段として考案したのが、就航する空港の整理。今日6月5日(金)、デルタ航空の運航実績、旅客実績の少ない空港のうち、11の空港を整理の対象とすることが決まりました。

 

対象になったのは、

 

メイン州バンゴー空港(BGR)

 

ペンシルベニア州エリー空港(ERI)

 

ミシガン州フリント空港(FNT)

 

ネブラスカ州リンカーン空港(LNK)

 

イリノイ州ピオリア空港(PIA)

 

ペンシルベニア州スクラントン空港(AVP

 

その他、アーカンソー州フォートスミス(FSM)、ノースカロライナ州ニューバーン(EWN)、カリフォルニア州サンタバーバラ(SBA)、ノースダコタ州ウィリストン(XWA)、コロラド州アスペン(ASE)。 合計11の空港です。元々都市の規模自体が小さく、就航していた機体はほとんどが50名仕様の小型機。費用削減の一環の中での選択となりました。

 

連邦政府による緊急支援金の給付を受ける際、一定の運航規模を確保し、従業員は9月30日までは会社都合での解雇はできない、などの条件を受け入れているので、今回の撤退に際しては、他の航空会社による運航が今後も継続されること、当該空港に勤める職員のお給料は9月30日までは確保されること、10月1日以降の再就職のオファーが確保されているなどを確認。連邦運輸局との折衝もあったらしいです。

実施になるのは、7月8日(水)以降。各空港とも7月7日(火)がこの計画ですと運航最終日になります。

 

もう1つ発表になった整理対象の空港があり、

カナダの首都、オタワ空港からのデルタ航空の完全撤退が決まりました。6月20日(土)が最終運航日になります……オタワの宿泊滞在の際では、ダウンタウンのホテルに宿泊していて、時間に余裕があった時は国会議事堂なども訪れていました。このご時世ですから、こればかりは仕方がないです……

 

デルタ航空では3月中旬の1日あたりの赤字額が1億ドル(日本円換算でおよそ110億円)を超え、現金枯渇がかなりの速度で進んでおりましたが、様々な事業整理が進み、現在の1日あたりの赤字額はおよそ5,000万ドル(同55億円)まで減っており、年末には1日あたりの赤字は解消できる見込みだそうです。ただコロナウィルスの第2波、第3波への備えは必要。普段であれば移動客が劇的に増える6月中旬以降でも、需要の推移を注意深く観察しながら徐々に増便という慎重姿勢。まだ未知のことが多いウィルスだけに、様子見は正解だと思います。

 

 

徐々に徐々に外出規制等が解除されつつあるアメリカにあって、最近目にするのはミネアポリスにおける警察官による黒人殺害に端を発した、全米でのデモ活動……

 

明けても暮れても、凄まじいばかりの現状を報道するニュースが、次々に入ってきます。

 

もちろん、これはやりすぎ……

 

特定のスーパーなどを標的とした略奪、放火事件を受けて、スーパーの中には一時閉店を決めたところもあります。

ミネアポリスに本社を置くスーパーのターゲット。既に店舗破壊の被害を受けた店舗もあり、全米で47軒が一時閉店をすることになりました……

 

ただ多くは、人権尊重を謳いながらの行進によるデモ。

 

警察官の中には、このデモに同調して参加する人が出るなど、

 

全米で少なくとも380を超える都市に広がって、今も収まる気配を見せていません……

黒人を含む有色人種の潜在意識の中にある被差別意識は根が深く、ジョージ・フロイド氏の死がきっかけとなって、その想いが爆発してしまい、デモの動きは未だに広がっているようです。

 

ここまで長続きするデモの、本当のモチベーションとは何なのか……実際には人種差別という問題だけでなく、貧富の差も相当絡んでいるものと、個人的には思っています。

経済指標の中にジニ係数というのがあります。0から1の間で示される係数の中で表わされ、0であれば所得が完全平等で住民間による差がないことを示し、逆に1になると1人の住民が収入を独り占めし、完全不平等であることを示します。 今のアメリカの収入格差は、20世紀初頭に起こった金融恐慌前の状況よりも酷くなっているそうです。現在のアメリカはジニ係数による収入格差が、暴動や革命が歴史上起きやすいとされている0.4。

 

資産の差で見ると超富裕層と貧困層では、数百倍にも広がっているらしく、超富裕層は海などが見晴らせる丘の上に、敷地面積が広く、様々な装飾に彩られた豪邸での優雅な生活を楽しむ一方で……

 

貧困層と呼ばれる人たちの生活は、日々の食料を手にするので毎日が精一杯………

お給料は州の定める最低賃金での劣悪条件の職場も少なくなく、貯金などは貯めようにも貯められないのが現実……コロナウィルスのニューヨーク州における感染の爆発的な拡大も、この劣悪労働条件が一役買ったことは、調査でも既に判明しています。

 

落合信彦さんが過去に書かれた本の中に、ニューヨーク南部ブロンクスの取材のお話が出てきたことがありましたが、その中で煉瓦建て高層アパート住宅の住民のほとんどが、電気代もガス代も水道代も払えず、建物全体に悪臭が漂っていたということがありました。

30年以上も前の本にはなりますが、この現実を知って衝撃を受けた記憶があります。現状は今でも多くは改善されていないように思います……

 

貧富の差を象徴したのがこの一件でした。写真の方はフォード工場に勤めるロバートソンさん。フォードの工場に勤めていながら、自ら運転する車が故障し、当時の時給が1時間あたり10.55ドルでとても次の車を購入できず、10マイル(およそ16キロ)の道のりを、風の日も雨の日も雪の日も、ひたすら徒歩で通っていたそうです。しかも10年間も……

2015年の一件で、全米でニュースにもなりました。アメリカでは感動する話題として取り上げられたのですが、裕坊自身は複雑な思いでこのニュースを見たのを覚えています……

 

まだ煉瓦建てのアパートに住めるのはマシだという現実を、目の当たりにすることもあります。

デトロイト近辺でもよく見かける、モバイルホーム。キャンピングカーを改造したような造り……全米じゅう、貧困地域と呼ばれる周辺を通ると、必ずと言っていいほど見かけます……もちろん住環境は劣悪、それでも雨風が凌げるだけマシなのかも知れません……

 

大都市のダウンタウンだけでなく、高速道路の出口交差点付近でもよく見かける、ホームレス……

これがGDPで今も世界で1番の国なのか、と目を疑いたくなる現実……アメリカの夢とは一体何なのか、こういった方達を見るにつけ、考えさせられるのです。

 

アメリカンドリームからは程遠い環境で生活をしている人たちをたくさん見るにつけ、そして裕坊自身、いつ同じ生活に陥るとも限らない現実に苛まれるにつれ、

デモに声を上げて反対、とはとても言えないジレンマがあります。

 

ですから、今現在デモをしている人たちを指差す気には、裕坊はとてもなれません……

懸念があるとすれば1つ。各都市で次々と外出規制などは緩和されていますが、コロナウィルス感染そのものが完全に終息した訳ではありません。あくまで病院の受入容量に若干の余裕が出てきているだけのことです。

 

 

コロナウィルス感染者が、デモによって広がらないことを祈るばかりです。