yuichibow’s blog

リージョナルジェット機の操縦席から外を眺めるお仕事をする人の日記

裕坊パイロット日記 6/12

皆さんこんにちは、航空会社フラリーマン裕坊です。

2018年6月12日、アメリカの現役大統領ドナルド・トランプ氏と北朝鮮の最高指導者・金正恩氏との首脳会談。米朝による直接対話が実現。歴史に刻まれる1日になりましたね。

実業家出身の異例の経歴で大統領就任を果たしたトランプさん、結果を貪欲に求めるその姿勢がやはり政治家上がりの政治家とは違っています。先月の末には(よりにもよって裕坊の49回目の誕生日に)米朝首脳会談の見送りを一旦は発表。その強気の姿勢に世界が度肝を抜かれたのは記憶に新しいお話。

会談に当たっては「我々は北朝鮮が非核化するまで最大限の圧力を掛けていく」と決意表明。「前にも言ったように、非核化を完璧に、検証可能かつ不可逆な形で達成すれば、北朝鮮には明るい道筋が待っている。北朝鮮にとっても世界にとっても、素晴らしい日となるだろう」

そして丸一日を費やした会談の後の共同声明。取りあえず非核化は盛り込まれました。それが出来なければ経済制裁もやめんぞ、はさすが実業家出身のトランプ氏。元々アプレンティスというバラエティ番組で、全米で流行語にまでなった「おまえ、クビ(You are fired!)」のフレーズはトランプさんの隠すことのない本心の表れ。ただ非核化費用は日韓で負担しなさい、だそうです。仰天ものの発想、ここでもトランプワールド全開でした。

そのトランプさんがアメリカ大統領選中に掲げていた選挙公約の中に、アメリカ第一主義というのがありました。トランプさん的には「自らの産業を犠牲にして他国の産業を豊かにすることに貢献し、他国を守るために、自らの軍隊を犠牲にしてきた」のだそうです。1番新しいところでは、鉄鋼やアルミに対しての関税。

同じように航空機製造業にも影響がある関税が課されていました。昨年の9月に発表になったカナダのボンバルディア社製造の最新型旅客機・Cシリーズに対して220%という天文学的な数字の関税を課すというもの。ボンバルディア社といえば、裕坊が今乗っているCRJシリーズの製造メーカー。CRJとはカナディアンリージョナルジェットの略で、元々は小型のジェット機を中心に作っていたモントリオールに本社を置く小さな航空機メーカーでした。代表的なビジネスジェットといえばチャレンジャーというのがあります。

そのビジネスジェット機の派生型で、飛行機のボディを延長し、50席の座席を詰め込んだのが初期型CRJ。ここから短中距離用、小型旅客機のビジネスが本格的に始まります。これをさらに伸ばして76席の座席を確保したのがCRJ−900型機。裕坊が今担当している機体。

ボンバルディア社、さらなるビジネスの機会を逃そうとはしませんでした。中型・大型旅客機の市場はエアバス社とボーイング社の2社がほぼ独占。しかし100人乗りの市場をボンバルディア社は決して見逃しませんでした。そこで開発されたのが今までの小型機と中型機の中間に位置する100人乗りの旅客機、Cシリーズ。全て新しく設計された機体、開発から市場に出るまで15年を要したボンバルディア社の力作、アメリカではデルタ航空が75機を発注しています。

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それが気に入らなかったのがボーイング社。黙って見過ごしてはいませんでした。アメリカ第一主義を掲げるトランプ氏に、カナダ政府からボンバルディア社が不当に補助金を受け取っているとロビー活動。昨年9月になってCシリーズ型旅客機に対して220%という前代未聞の率の関税がかかることが、トランプ大統領の一存で決まります。75機のCシリーズ型旅客機を発注していたデルタ航空は懸念を表明。2018年には始まるはずだった新型旅客機の稼働の予定を遅らさざるを得なくなることに。

ボンバルディア社も負けてはいませんでした。既に2015年にアラバマ州モービルという小さな町で、北米市場用の工場で中型機エアバス320型機を中心とした旅客機製造を本格化させていたエアバス社に働きかけます。

エアバスブランドとしてCシリーズをアラバマ工場で生産し、アメリカで売ってみるのはどうか、と。有り得ない程に高い関税を回避するための苦肉の策ではありましたが、背に腹は変えられなかったのでしょう。ビジネスチャンスを自らも目論むエアバス社もその合弁の機会に乗り、今年7月1日に正式な合意を以って、2020年以降の納入を見据えたCシリーズ型旅客機のアラバマ工場における生産に踏み切ることになりました。

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皮肉だったのはアメリカの航空機製造業を保護しようとしたトランプ政権。かつてほぼボーイング社とマクドナルダグラス社がかなりのシェアを占めていた大手航空会社向け航空機市場。デルタ航空ボーイング社の関係を微妙なものにする皮肉な結果になってしまいました。

既にデルタ航空では今後の大型機の発注をエアバス社製にシフトする方向に入っていて、実際にドリームライナーと呼ばれたボーイング787型機の発注を中型機であるボーイング737型機に切り替え。デルタ航空との契約における国際線用大型機機材の新規発注はエアバス社が独占する皮肉な結果を生み出しています。(最新型エアバス330型機25機、エアバス350型機25機を既に確定発注、うち10機のエアバス350型機は納入済み)

残念ながら、少なくとも航空機製造業市場においては、トランプさんの目指すアメリカ第一主義は必ずしも成功したとは言えないようです。

ただ歴史的な米朝首脳会談に名を刻んだトランプ氏。評価はかなり割れているようですが、少なくとも北朝鮮の非核化への一歩を踏み出したのは事実。課題は山積ですが、一定の評価は与えていいのではないか、に一票です。

 

裕坊